「仕事が原因でうつ病になった」「もう働けない状態なのに、これは労災にならないのだろうか」――そう感じながらも、申請方法がわからず泣き寝入りしている人は少なくない。実は、仕事上の強いストレスや過重労働が原因で発症したうつ病は、一定の要件を満たせば労働災害(労災)として認定される。本記事では、認定の基準・手順・実際の事例をわかりやすく解説する。
そもそも「精神障害の労災認定」とはなにか
労災保険は、業務上の事故やケガだけでなく、業務が原因で発症した精神疾患も補償の対象となる。うつ病・適応障害・急性ストレス反応などの精神障害が対象で、認定されると以下の給付を受けることができる。
- 療養補償給付:治療費の全額給付
- 休業補償給付:休業4日目から給付基礎日額の約80%を支給
- 障害補償給付:後遺障害が残った場合の年金・一時金
- 遺族補償給付:過労自死(自殺)の場合、遺族への補償
労災認定の3つの要件
厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、以下の3つをすべて満たす場合に労災と認定される。
要件① 対象疾病であること
ICD(国際疾病分類)に基づく精神障害であること。うつ病・適応障害・PTSDなどが該当する。
要件② 業務による強い心理的負荷があったこと
発病前おおむね6か月以内に、業務による強い心理的負荷(ストレス)があったと認められること。厚生労働省は「業務による心理的負荷評価表」を定めており、各出来事の負荷の強度を「強・中・弱」で評価する。
「強」と評価される主な出来事の例:
- 1か月あたり100時間超、または2〜6か月平均で月80時間超の時間外労働
- 上司・同僚からのひどいいじめ・嫌がらせ・暴力
- セクシュアルハラスメントを受けた
- 悲惨な事故・災害を直接経験・目撃した
- 会社が違法行為を強要した
- 重大な失敗をして会社に大きな損失を与えた
- 退職を強要された
要件③ 業務以外の心理的負荷・個体側要因が認められないこと
離婚・家族の死亡・多額の借金など、業務以外の強いストレスが主な原因でないこと。ただし、業務上の負荷と私的な負荷が重なる場合は、業務上の負荷が「相対的に有力な原因」であれば認定される場合もある。
申請の流れ
ステップ① 主治医に相談・診断書を取得する
まず受診している精神科・心療内科の医師に、労災申請を検討していることを伝え、診断書を作成してもらう。「業務との関連性」について医師の見解を記載してもらえると申請がスムーズになる。
ステップ② 労働基準監督署に申請する
勤務先を管轄する労働基準監督署に「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」などの書類を提出する。会社側の証明欄があるが、会社が協力しない場合でも申請は可能だ。
ステップ③ 調査・審査
労働基準監督署が、タイムカード・メール記録・同僚へのヒアリングなどをもとに調査を実施する。精神科の専門医による判定も行われる。審査期間は平均6か月〜1年程度かかる場合が多い。
ステップ④ 認定・不認定の通知
認定されれば各種給付が支給される。不認定の場合は審査請求(異議申し立て)が可能だ。
実際の労災認定事例
以下はいずれも、実際の認定事例をもとに個人が特定されないよう再構成した事例だ。
【事例①】長時間残業が続き、うつ病を発症した30代の男性会社員
IT系企業に勤める30代の男性Aさんは、大型プロジェクトの担当者となって以降、月100時間を超える残業が4か月以上続いた。次第に眠れない・食欲がない・朝起きられないといった症状が現れ、精神科でうつ病と診断された。
Aさんは有給を消化しながら休職したが、傷病手当金だけでは生活が苦しく、弁護士に相談。タイムカードの記録とメールの送受信履歴を証拠として労基署に申請した結果、月80時間超の時間外労働が認められ労災認定。休業補償給付を受けながら治療に専念し、約1年後に職場復帰を果たした。
ポイント:タイムカード・PCのログ・メール記録など、長時間労働を裏付ける証拠の保全が重要。
【事例②】上司からのパワーハラスメントで適応障害を発症した40代の女性
小売業に勤める40代の女性Bさんは、異動後の上司から日常的に人格を否定する発言や、他の従業員の前での叱責を繰り返された。「お前には無理だ」「給料泥棒」といった言葉を毎日浴びせられ、3か月後に適応障害と診断され出勤できなくなった。
Bさんはハラスメントの内容を日記に記録しており、同僚も証言に応じた。労基署の調査で上司の言動が「心理的負荷・強」と評価され、労災認定。療養給付に加え、弁護士を通じた会社への損害賠償請求も行い、和解が成立した。
ポイント:ハラスメントは日時・内容・発言者を記録するメモや録音が有力な証拠になる。
【事例③】業務上の重大事故を目撃してPTSD・うつ病を発症した50代の男性
製造業に勤める50代の男性Cさんは、同僚が重機に巻き込まれる重大事故を間近で目撃した。その後、フラッシュバックや不眠が続き、PTSDおよびうつ病と診断された。
Cさんは事故直後から会社の産業医に相談しており、記録が残っていた。事故との因果関係が明確であったため、比較的速やかに労災認定。治療費・休業補償が支給されるとともに、会社の安全管理体制についても労基署の指導が入った。
ポイント:業務上の事故・災害が原因の場合は因果関係が認定されやすく、会社の安全配慮義務違反も問われる場合がある。
【事例④】過労自死(自殺)が労災認定されたケース
広告代理店に勤めていた20代の女性Dさんは、月100時間を超える残業が続く中で自ら命を絶った。遺族は会社のタイムカードや上司とのやり取りを記録したSNSのメッセージを証拠として労基署に申請。調査の結果、過労による精神障害からの自殺として労災認定された。
遺族は労災給付の受給とともに、会社に対して民事訴訟を提起し、億単位の損害賠償が認められた。
ポイント:過労自死の場合も労災申請が可能。遺族が申請できるため、まず専門家(社労士・弁護士)への相談を強く勧める。
申請にあたって知っておきたいこと
- 会社の協力が得られなくても申請できる:会社が証明を拒否しても、申請書に「会社が証明を拒否した」と記載すれば受理される
- 時効は2年(死亡は5年):療養・休業補償は請求権が2年で消滅するため、早めの対応が重要
- 証拠の保全を早めに:タイムカード・メール・日記・録音・同僚の証言など、できる限り多くの証拠を残しておく
- 社会保険労務士・弁護士への相談を:申請書類の作成や証拠収集のサポートを受けることで、認定率が上がる可能性がある
ストレスチェックで「気づく」ことの重要性
労災認定は、あくまで発症・悪化した後の救済手段だ。最も重要なのは、深刻化する前に不調に気づき、早期にケアにつなげることだ。ストレスチェックは、自分では気づきにくいストレスの蓄積を「見える化」する有効なツールだ。結果が「高ストレス」と判定された場合、産業医への面接指導を申し出ることが法律上認められており、これが早期介入のきっかけになる。
「まだ大丈夫」と思っていても、ストレスは静かに蓄積する。定期的なチェックを習慣にすることが、自分自身を守る第一歩となる。
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